防塵・防水性能を表すIP規格とは?IP67・IP68など性能面の違いも解説
スマートフォンやカメラなど電子機器の購入を検討しているなら、必ず確認しておきたいのがIP規格です。IP規格を確認することで、機器の防塵・防水性能がわかります。しかし、規格の読み方や分類について正しく認識している方は少ないでしょう。
本記事では、IP規格の概要や読み方、防塵・防水それぞれの分類、規格ごとの性能面の違いを解説します。購入を検討している電子機器の保護性能が十分なのかを見極めたい方は、ぜひ参考にしてください。
IP規格とは
IP規格とはなんなのか、全体像がわかるよう以下2つのポイントで解説します。
- IP規格の概要
- IP規格の読み方
◇IP規格の概要
IP規格とは、電子機器の防塵・防水性能を表す国際的な規格です。IPはIngress Protection(侵入に対する保護)のことで、機器内部への塵や水の侵入にどれだけ耐えうるかを表しています。
IEC(国際電気標準会議)が定めたIP規格は世界各国で利用されており、日本のJIS(日本工業規格)も準拠している国際的な規格です。カメラやスマートフォンなど身近なものから、産業用ロボットや監視カメラなど専門的なものまで幅広い機器に適用されています。
◇IP規格の読み方
IP規格は2桁の数字で表され、1つ目の数字が防塵性能、2つ目の数字が防水性能を表します。例えば、IP67の場合、6が防塵性能、7が防水性能を表す数字です。基本的には数字が大きいほど保護性能が高く、防塵性能は0~6の7段階、防水性能は0~8の9段階に分かれています。
防塵・防水いずれかの保護性能だけを表す場合は、もう一方を「X」にすることで表示が可能です。例えば以下のようなパターンがあります。
- IP67:防塵性能は6、防水性能は7
- IP6X:防塵性能は6、防水性能はなし
- IPX7:防塵性能はなし、防水性能は7
電子機器メーカーにとっては防塵性能・防水性能どちらかだけをアピールしたい場合にも使えるため、幅広く利用されています。
IP規格における防塵性能の分類
IP規格の防塵性能について、以下2つのポイントで解説します。
- 防塵性能を表す7つの等級
- IP6Xなら塵は一切侵入しない?
◇防塵性能を表す7つの等級
IP規格の防塵性能を表す等級は、以下のとおり分かれています。
IP規格 | 保護レベル |
IP0X | 防塵性能なし |
IP1X | 人の手など、直径50mm以上の固形物が内部に侵入しない |
IP2X | 人の指など、直径12.5mm以上の固形物が内部に侵入しない |
IP3X | 工具の先端など、直径2.5mm以上の固形物が内部に侵入しない |
IP4X | ワイヤーなど、直径1.0mm以上の固形物が内部に侵入しない |
IP5X | 機器の動作に支障をきたしたり安全を損なったりするほどの粉塵が侵入しない |
IP6X | 粉塵の侵入を完全に防止する |
防塵性能は0~6の7段階に分かれており、数値が高いほど耐性も高くなっています。IP4Xまでは具体的な固形物のサイズによって防塵性能が分類されていますが、IP5X以降は粉塵の侵入レベルによって規格が決まっています。
防塵性能が上がるにつれて、機器内部の気密性をより高く保つことが必要です。そのため、製品価格も高くなる傾向にあります。
◇IP6Xなら塵は一切侵入しない?
IP6Xは粉塵の侵入を完全に防止すると定義されているため、どのような塵の侵入からも保護されていると考えがちです。しかし、IP6Xでも常に完全な防塵が成り立つわけではありません。
例えば、外部機器への接続部分などに粉塵が舞い込めば、故障を起こす可能性は十分あります。スマートフォンでいえば、イヤホンジャックや充電器の差し込み口、スピーカー部分などが該当するでしょう。 IP6Xの電子機器だとしても、必要なとき以外はフタやカバーを閉じておくこと、粉塵の舞う場所で使用しないことなどが安全な利用のためには不可欠です。説明書には必ず目を通し、メーカーが推奨する環境でのみ使用するようにしてください。
IP規格における防水性能の分類
IP規格の防水性能についても、以下2つのポイントで解説します。
- 防水性能を表す9つの等級
- IPX8でも注意が必要なケースとは
◇防水性能を表す9つの等級
IP規格の防水性能を表す等級は、以下のとおり分かれています。
IP規格 | 保護レベル |
IPX0 | 防水性能なし |
IPX1 | 垂直に落ちてくる水滴によって有害な影響が起こらない |
IPX2 | 垂直から15度以内の傾きから落ちてくる水滴によって有害な影響が起こらない |
IPX3 | 垂直から60度以内の傾きから落ちてくる水滴によって有害な影響が起こらない |
IPX4 | いかなる方向からの飛沫であっても有害な影響を受けない |
IPX5 | いかなる方向からの噴流水であっても有害な影響を受けない |
IPX6 | いかなる方向からの強い噴流水であっても有害な影響を受けない |
IPX7 | 一定の時間・水圧のもとで水中に没しても内部に水が侵入しない |
IPX8 | IPX7より厳しい条件のもとで水中に没しても内部に水が侵入しない |
防水性能は0~8の9段階に分かれており、防塵性能と同様に数値が高いほど保護性能も高くなっています。
分類の基準については、IPX1~X3までは水が落ちてくる角度、IPX4~X6までは水圧の強さ、IPX7~X8は水没時の防水性能によって定められています。ただし、IPX8は明確な試験方法が規定されていません。メーカーの独自基準によって設定されているため、IPX8の性能にはバラつきがあることを理解しておきましょう。
◇IPX8でも注意が必要なケースとは
防水性能が最高レベルのIPX8でも、完全な防水が成り立つわけではありません。防水性能を前提として使用するのではなく、「万一手を滑らせて水に濡れてしまっても、故障する可能性が低い」くらいにとらえておくべきでしょう。
まず、防水試験は常温の真水で行なわれるため、塩分や化学物質を含む水に対する保護性能を保証するものではありません。海水やアルコールなどに濡れた場合、同じ保護性能を発揮できるかどうかは不明なため、使用には十分注意しましょう。
また、水蒸気にさらされる場合も故障のリスクがあります。IP規格の防水性能は、湿度に対する保護を兼ねていません。サウナや浴室の中など水蒸気が発生しやすい環境で使用した場合、内部で結露が発生し故障の原因となる可能性があります。
さらに、IPX0~IPX6までとIPX7以降では試験の種類が異なるため、IPX7以上だからといってIPX6以下の保護性能を備えているわけではない点にも注意が必要です。そのため、噴流水に対する防水性能と水没に対する防水性能を備えている場合は「IPX5/IPX7」のように併記されることがあります。
【IP規格別】具体的な防塵・防水性能の違い
近年の電子機器は防塵・防水性能が高く、IP65~68あたりの性能を備えたものがほとんどです。特に、さまざまな環境に持ち運ぶスマートフォンや、屋外で使用される防犯カメラなどは、近年ではIP66やIP67、IP68レベルの保護性能を備えています。
ここでは、最近の電子機器によく見られるIP65~68の性能について、それぞれ具体的に解説します。
◇IP65・66・67・68の防塵性能
IP65・66・67・68の防塵性能については、すべてIP6Xにあたるため違いはありません。
IP規格 | 防塵性能 |
IP65・66・67・68共通 | 最高レベルの6であるため、接続端子など保護が必要な部分を除き、粉塵が機器内部に侵入することはない |
◇IP65・66・67・68の防水性能
一方、防水性能にはそれぞれ違いがあります。
IP規格 | 防水性能 |
IP65 | 一定レベルの噴流水には耐えられるが、水圧が強くなると浸水する可能性があるほか、水没への耐性は保証されていない |
IP66 | 強い噴流水に耐えられるが、水没への耐性は保証されていない |
IP67 | 一定の水圧・時間において水没しても浸水しないが、噴流水への耐性は保証されていない |
IP68 | IP67よりも強い水圧・長い時間の水没に耐えられるが、厳密な基準はメーカーによって異なるほか、噴流水への耐性は保証されていない |
IP65であれば、家庭用のシャワー程度の水流であれば耐えられますが、台風などの強い雨風にさらされると故障する可能性が高いでしょう。
またIP66とIP68を比較した場合、後者のほうが防水性能の等級は高いですが、すべての面で優れているわけではない点に注意しましょう。IP68の噴流水に対する耐性は、別途明記されていない限りは保証されていません。
例えば、屋外に設置する監視カメラなどであれば、水没よりも台風や豪雨にさらされる危険性のほうが高いでしょう。よって、強い噴流水に耐えられるIP66の製品が多い傾向にあります。その場合でも、通信用ケーブルの接合部分などは防水性能が弱いため、防水テープを巻くなどの対応が推奨されます。
IP68の水没に対する性能はIP67よりは優れていますが、テスト基準はメーカーによります。厳密な基準を知りたい場合は、購入を検討している機器の仕様書を確認しましょう。
まとめ
本記事ではIP規格の防塵・防水性能について、概要や読み方、分類による性能の違いを解説しました。
屋外で使用する電子機器を購入する際には、想定される環境に対応したIPレベルの製品を選ぶことが大切です。ただし、等級が最高レベルだからといって完全な防塵・防水が成り立つわけではない点には注意しましょう。メーカーの説明書をよく読み、推奨されている環境でのみ使用することが大切です。
監視カメラなどIP規格の等級が高い電子機器を屋外で使うなら、電力や通信回線を供給するスイッチングハブも同じ環境に対応したものが必要となります。スイッチングハブに十分な防塵・防水性能がなければ、電子機器自体が保護されていても意味がないからです。
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