PoEはLANケーブルから給電できる便利な技術ですが、その仕組みには理解しにくい部分もあります。しかしPoE接続を行なうには、PSE(給電機器)やPD(受電機器)の役割や規格について一定の理解が欠かせません。
本記事では、PoEにおけるPSE(給電機器)とPD(受電機器)の役割や接続の仕組みについて、わかりやすく解説します。PoE機器を使った電子機器の設置を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
PoEにおけるPSE(給電機器)とPD(受電機器)とは
PoEの仕組みや、PSE・PDそれぞれの役割について、以下4つのポイントで解説します。
- PoEの仕組み
- PSE(給電機器)とは
- PD(受電機器)とは
- PoEで使うLANケーブル
◇PoEの仕組み
PoEは「Power over Ethernet」の略であり、Powerは電源、EthernetはLANケーブルに使われる通信規格をそれぞれ指します。つまり、PoEとは「LANケーブルを通じて給電する仕組み」だととらえればわかりやすいでしょう。
使用したい電子機器がPoE対応であれば、電源の確保ができないような場所でもLANケーブルさえつながれば給電が可能です。電源の確保が不要になるため、電子機器を設置する場所の自由度が高まる点や、配線工事などの余計な作業が不要になる点などがPoEを導入するメリットとして挙げられます。
◇PSE(給電機器)とは
PSEは「Power Sourcing Equipment」の略であり、PoEにおいて電力を供給する側の給電機器を指します。
具体的には、PoEで接続する電子機器を複数つなげるための「スイッチングハブ」をPSEとして使用するケースが多いでしょう。その他、「PoEインジェクター」によってPoE非対応のスイッチングハブに対して、PoE機能を追加するという方法もあります。しかし、当初からPoE機器の使用を念頭に置いているなら、PoE対応のスイッチングハブを購入するほうが余計な接続が不要になるため手間は省けるはずです。
なお、PoE対応スイッチングハブにPoE非対応の電子機器をつないだ場合も、ネットワーク通信だけなら基本的に可能とされています。ただし、当然ながら受電機能がないためPSEからの給電はできません。
◇PD(受電機器)とは
PDは「Powered Device」の略であり、PSEから電力の供給を受ける受電機器を指します。よく利用されるPDの例として、監視カメラやIP電話、ルーター、照明などが挙げられます。
PDは、LANケーブルを通じてPSEからの給電を受けられるため、電源の確保が難しい場所でも機器の利用が可能になります。例えば、屋外に監視カメラを設置する場合、電源の確保は簡単ではありません。しかし、PoE対応であれば、LANケーブル(単線)を通じて最大100mまで送電可能であるため、電子機器の設置可能範囲が大きく広がります。
◇PoEで使うLANケーブル
LANケーブルには複数の規格が存在しますが、PoE接続に使用できるものは限られています。LANケーブルは、通信速度などの違いによりカテゴリに分類されており、CAT.5・CAT.5e・CAT.6・CAT.6A・CAT.7・CAT.7A・CAT.8などがあります。PoEに使用する場合は、カテゴリ5e以上のLANケーブルを使用してください。
LANケーブルの規格では、基本的に数字が大きいほど通信速度が速く、同じ数字であればアルファベット付きのほうが性能として優れています。既存のケーブルを利用する場合は、ケーブル自体に印字されている規格を読み取りましょう。なお、5eのeは「エンハンスド」とカタカナで表記される場合もあります。
PoE規格とは|PSE・PDの組み合わせが重要
PoEにも規格が存在するため、機器を購入する際によく確認しましょう。PoE規格について、以下2つのポイントで解説します。
- PoE規格の分類
- PSEとPDの組み合わせ
◇PoE規格の分類
PoE規格は、アメリカに本部があるIEEE(アイトリプルイー:Institute of Electrical and Electronics Engineers)が定めています。以下のとおり、大きく3つに分けてPoE(IEEE802.3af)、PoE+(IEEE802.3at)、PoE++(IEEE802.3bt)という規格が存在します。
規格 |
タイプ |
クラス |
PSE(最大給電) |
PD(最大受電) |
PoE(IEEE802.3af) | 1 |
0 |
15.4W |
12.95W |
1 |
4.0W |
3.84W | ||
2 |
7.0W |
6.49W | ||
3 |
15.4W |
12.95W | ||
PoE+(IEEE802.3at) | 2 |
4 |
30.0W |
25.5W |
PoE++(IEEE802.3bt) | 3 |
5 |
45.0W |
40.0W |
6 |
60.0W |
51.0W | ||
4 |
7 |
75.0W |
62.0W | |
8 |
90.0W |
73.0W |
上記のとおり、規格によってPSE・PDそれぞれの給電電力と受電電力に違いがあるため、適切な組み合わせの機器を選ぶ必要があります。
◇PSEとPDの組み合わせ
電力を供給する側であるPSEの規格は、受電機器であるPDの規格と同等以上でなければなりません。PSEの規格よりもPDの規格が上位である場合、十分な電力が供給されず、不具合につながる能性があるからです。
PD(受電) |
||||
PoE |
PoE+ |
PoE++ | ||
PSE(給電) |
PoE |
○ |
× |
× |
PoE+ |
○ |
○ |
× |
|
PoE++ |
○ |
○ |
○ |
上記のとおり、PSEの規格がPDの規格と同等以上になるよう、双方の仕様をよく確認しましょう。
PoEにおけるPSE・PD接続の仕組み
PoEにおいて、PSEとPDを接続する仕組みを以下3つの流れで解説します。
- PSEによるPDの検出
- PSEによるPDの電流測定
- PSEからPDへの給電開始
◇PSEによるPDの検出
LANケーブルによってPD(受電機器)をPSE(給電機器)に接続すると、PSEによるPDの検出が開始されます。
具体的には、PSEから2.8~10.0Vの範囲で2つの異なる電圧が印加され、電流が測定されます。PDには25kΩの抵抗が内蔵されており、それに対応する電流値を検出することでPSEがPDを認知するという仕組みです。
◇PSEによるPDの電流測定
PSEがPDを認知したら、次にPSEから15.5~20.5Vの電圧が出力され、再び電流を測定します。検出された電流によって、PDの消費電力クラスが識別され、これにより、接続されたPDに応じた給電の準備が整います。
◇PSEからPDへの給電開始
PSEがPDの消費電力クラスを決定したあと、PSEからPDへ電力の供給が開始されます。
以上が、PSEがPDを認知し、適切な給電を開始するまでの流れです。
PSE機器の動作について
PSEを各種電子機器に接続した際の動作について、以下2つのポイントで解説します。
- PSEとパソコン(非PD機器)の接続
- PSEにおける「ポート単位の給電電力」と「機器全体の最大給電可能電力」
◇PSEとパソコン(非PD機器)の接続
まず、PSEにパソコン(非PD機器)を接続できるかという点です。
結論からいうと、規格としては可能です。PoE接続においては、給電機器であるPSEが受電機器であるPDの接続を検知すると、電力の供給を開始します。しかし、PD機器でないパソコンなどが接続された場合には、給電を開始せず、通常のLANポートとして通信する仕様となっています。
したがって、PSEに非PD機器であるパソコンを接続することは可能です。ただし、パソコンのインタフェース部分などに何らかの障害がある場合、PD機器であると誤認識することがあります。接続前にはパソコンが通常どおり作動しているか、障害が起きていないかチェックするようにしましょう。
◇PSEにおける「ポート単位の給電電力」と「機器全体の最大給電可能電力」
PSE機器においては、「ポート単位の給電電力」と「機器全体の最大給電可能電力」の2つを把握する必要があります。
ポート単位の給電電力はIEEE802.3規格で定められており、PDのクラスによって給電電力の上限が決まっています。一方、機器全体の最大給電可能電力は装置の仕様で決まります。
なお、ポートに接続されているPD機器の消費電力が、PSE機器の給電電力を超えた場合の動作は、機器によって異なります。
例えば、4ポートのPoE装置に対し、2つのポートに最大30W(クラス4)のPD機器を接続します。この場合、装置全体の最大給電可能電力は60W以上が必要です。
仮に機器全体の給電電力を80Wとした場合、3ポート目に最大30W(クラス4)のPD機器を接続すると、PSE機器はどのように動作するでしょうか。
「ポートの給電電力>機器全体の最大給電可能電力」となったときのPSE機器の動作について、明確な規定はありません。しかし、よくある動作例として、以下の2つが挙げられます。
・全ポートの給電を停止する
1つ目は、全ポートの給電が停止されるというパターンです。
その後、ポートの若い番号から順次給電を再開します。しかし、状況が変わっていなければ、3ポート目の給電が開始されたあとに再びPSE機器の給電電力を超えるため、全ポートの給電が再度停止されます。
・3ポート目のみ給電停止と再開を繰り返す
もう1つは、3ポート目のみが給電停止と再開を繰り返すというパターンです。ポート毎に給電の優先順位が決まっている機器において、3ポート目の優先順位が最も低い場合に起こる動作です。3ポート目を接続する前に給電していた2つのポートに対しては、給電が継続されます。
3ポート目に対する給電の優先順位が最も高い場合は、先に給電していた2つのうち優先順位が低いほうのポートに対して給電停止と再開を繰り返すことになります。よくある例として挙げられるのは、監視カメラを追加した際に、同じPSE機器にすでに接続していた監視カメラの動作が不安定になるといったケースです。
まとめ
本記事では、PoE接続の仕組みや、給電機器であるPSEと受電機器であるPDそれぞれの役割について解説しました。適切にPoE接続を行なうには、各ポートのPDに対して十分な給電電力を持つPSEが必要になります。
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